無視された詩織さんの訴え

ストーカー行為が組織がかりの様相でエスカレートする一方、警察が本格的に捜査を
行った形跡はない-----。（鳥越俊太郎＆取材班著『桶川女子大生ストーカー殺人
事件』メディアファクトリー刊より）

「私が殺されたら犯人はあいつ」　
　彼女は殺される前、友人にそう告げていた。あいつとは元交際相手の裏風俗店経営
者・小松和人（２７歳）。１月に出会ったときから外車ディーラーと職業を偽ってい
た。３月になり別れを告げると、男は執拗なストーカーに豹変した。
　詩織さんが埼玉県警上尾署に被害を訴えたのは６月のことだ。７月末、名誉毀損の
告訴状も提出したが。中傷ビラ、怪文書、カーステレオによる大音響、１日何本もの
無言電話‥…。
　ストーカー行為が組織がかりの様相でエスカレートする一方、警察が本格的に捜査
を行った形跡はない。
　２０００年に向け、世の中がどこか浮かれる中、詩織さんの戦いは、日々続いた。
「助けて。男を捕まえてください、私は殺される」
警察に訴える詩織さんだったが
「お前は２０００年まで生き残れない」
と、嘲笑う男の脅迫はやむことはなかった。

　警察刷新の過渡期にありながら、組織末端の時代感覚はみごとに麻痺していた。
「ストーカー行為は犯罪」という認識は、上尾警察署の警察官らには一切なかった。
「いい思いもしたんだから。これは、男と女の問題。警察は立ち入れないんだよ」
  上尾署は“民事不介入”の姿勢で、最後まで詩織さんの声を無視した。
　やがて小松和人の兄を含む殺害の実行犯４名が逮捕され、ほか８名も名誉毀損容疑
で逮捕。行方不明だった小松和人は１月末、北海道の屈斜路湖で、遺体で発見され
た------。

※判決骨子

※「判決の問題点と控訴審の課題」原告弁護団・中山福二弁護士